06,
2009
散らないで、散らないで
*
──彼女が泣くところを初めて見た、と。死の間際で彼はようやく気づいた。
止め処なく流れていく己の血液の気配を朧気に感じながらも、そんなことはどうでもいいとさえ思った。沸き上がってくるこの高揚感は何だろうか。酷く愛おしい。愛おしくて愛おしくて──その涙に濡れた顔をぐちゃぐちゃにして、跡形もないくらいに壊して、冷たい雪の柩に収めてしまいたかった。
エミリオ、と彼女の声が動く。鈴よりも鳥よりも遥かに美しかったその音色は、彼の耳にはすでに遠かった。
ぽつぽつと頬に落ちてくる、いくつもの雫が温かい。母の羊水のぬくもりとはこんなふうだったのだろうか。或いは、洗礼の際に沈められた清らかなる聖水とは、こんなふうに肌にじんわりと染み入って、たとえば畏敬や崇拝の念などと云うものを、この身に満たしていったのだろうか。
けれどそれらの何一つ、きっと、こうまでも矛盾だらけな感情を抱かせることはなかっただろう。
泣かないでほしいと叫ぶ心と、その表情が見たかったと悦ぶ心が拮抗して、彼の中で鬩ぎ合っていた。
「……ア、リア」
凍えて血の気の失せた唇をどうにか動かし、彼は恋しい人の名を呼んだ。
たった一言のその音だけで、世界は色濃く鮮やかに、美しく煌めき始めるのだと云うことを、ずっと前から──きっと産まれるその前から、知っていた。
そして死んでも、ずっと彼女の名は特別な光であり続けるだろうと云う、確信がある。
「アリア……」
朦朧とする意識の最中、彼は自らの血に塗れ、鉛のように重くなった腕を上げた。彼女の涙に触れたかった。
誰もが宝石と讃えた瞳は、彼にとっては永遠に朽ちない花だった。神様に愛された、世界の何よりも尊く、綺麗で、揺るぎなく凛然と咲いた光の花。大切だった。愛していた。だから誰よりも──誰よりも、誰もに愛されてほしかった。
孤独に怯えず。孤高に嘆かず。万人に寄り添って微笑んで、愛されていてほしかった。
黄金(きん)の瞳からはらはらと絶えなくあふれる涙に触れる。彼はまた、アリア、と呼んだ。
「愛してる……」
彼の血に染まった彼女の真っ赤な両手が、涙を拭った彼の手を捕らえ、柔らかくその頬に押しつける。彼女の頬は温かかった。それは彼女の肌が熱を帯びているからなのか、或いはもう己の手に血の廻りがないためなのか、彼には知る由もなかったが。
それは幸福だった。餞別と称するにはあまりにも高潔すぎるほどの。
「愛してる。愛してる、アリア。だからどうか」
幸福でいて。
愛されていて。
──憎まれるために産まれてきたなんて、どうかそんなふうに、生きることを悲しまないで。
エミリオ、エミリオ、と。聖域(サンクチュアリ)で鳴り響く神の鐘のように、いくどもいくども繰り返し、終わらずに降るあの花の国(ティタニア)の雪のように静かにその声は彼の上に降り注いで、いくえにもいくえにも織りを成し、決して彼に微笑みはしなかった神の御許の如くに彼を包んだ。
やがて腕の力が抜け、彼の手は彼女の頬から離れた。
忘れられた王子/『The Last Eden』──『The Beautiful World』スピンオフ
*
──彼女が泣くところを初めて見た、と。死の間際で彼はようやく気づいた。
止め処なく流れていく己の血液の気配を朧気に感じながらも、そんなことはどうでもいいとさえ思った。沸き上がってくるこの高揚感は何だろうか。酷く愛おしい。愛おしくて愛おしくて──その涙に濡れた顔をぐちゃぐちゃにして、跡形もないくらいに壊して、冷たい雪の柩に収めてしまいたかった。
エミリオ、と彼女の声が動く。鈴よりも鳥よりも遥かに美しかったその音色は、彼の耳にはすでに遠かった。
ぽつぽつと頬に落ちてくる、いくつもの雫が温かい。母の羊水のぬくもりとはこんなふうだったのだろうか。或いは、洗礼の際に沈められた清らかなる聖水とは、こんなふうに肌にじんわりと染み入って、たとえば畏敬や崇拝の念などと云うものを、この身に満たしていったのだろうか。
けれどそれらの何一つ、きっと、こうまでも矛盾だらけな感情を抱かせることはなかっただろう。
泣かないでほしいと叫ぶ心と、その表情が見たかったと悦ぶ心が拮抗して、彼の中で鬩ぎ合っていた。
「……ア、リア」
凍えて血の気の失せた唇をどうにか動かし、彼は恋しい人の名を呼んだ。
たった一言のその音だけで、世界は色濃く鮮やかに、美しく煌めき始めるのだと云うことを、ずっと前から──きっと産まれるその前から、知っていた。
そして死んでも、ずっと彼女の名は特別な光であり続けるだろうと云う、確信がある。
「アリア……」
朦朧とする意識の最中、彼は自らの血に塗れ、鉛のように重くなった腕を上げた。彼女の涙に触れたかった。
誰もが宝石と讃えた瞳は、彼にとっては永遠に朽ちない花だった。神様に愛された、世界の何よりも尊く、綺麗で、揺るぎなく凛然と咲いた光の花。大切だった。愛していた。だから誰よりも──誰よりも、誰もに愛されてほしかった。
孤独に怯えず。孤高に嘆かず。万人に寄り添って微笑んで、愛されていてほしかった。
黄金(きん)の瞳からはらはらと絶えなくあふれる涙に触れる。彼はまた、アリア、と呼んだ。
「愛してる……」
彼の血に染まった彼女の真っ赤な両手が、涙を拭った彼の手を捕らえ、柔らかくその頬に押しつける。彼女の頬は温かかった。それは彼女の肌が熱を帯びているからなのか、或いはもう己の手に血の廻りがないためなのか、彼には知る由もなかったが。
それは幸福だった。餞別と称するにはあまりにも高潔すぎるほどの。
「愛してる。愛してる、アリア。だからどうか」
幸福でいて。
愛されていて。
──憎まれるために産まれてきたなんて、どうかそんなふうに、生きることを悲しまないで。
エミリオ、エミリオ、と。聖域(サンクチュアリ)で鳴り響く神の鐘のように、いくどもいくども繰り返し、終わらずに降るあの花の国(ティタニア)の雪のように静かにその声は彼の上に降り注いで、いくえにもいくえにも織りを成し、決して彼に微笑みはしなかった神の御許の如くに彼を包んだ。
やがて腕の力が抜け、彼の手は彼女の頬から離れた。
忘れられた王子/『The Last Eden』──『The Beautiful World』スピンオフ
*
恋情と愛情のはざまにて。
『The Last Eden』最終章「10.十字架に捧げられし祈りが想うのは」(title by 群青三メートル手前 さま)より。『The Last Eden』はできれば今年中に完成させたい小説その三。
黒王子も好きだが白王子もやっぱり好きだ。
『The Beautiful World』はスピンオフたくさんやりたい。という願望だけはある。
凛ちゃんと遊んできましたー! 楽しかったです!
今日(昨日?)もなんか自分勝手&わがまま&好き勝手に話しっぱなしな感じで申し訳なかったよ;
んでもいろいろお話できて楽しかったー。念願のカプリチョーザのパスタを食べられ、そしてカラオケで懐かしの合唱曲をいろいろ歌えて幸せだった!(……おまえミスチル三昧してくる予定ではなかったのか)
また成人式で会おうな。がんばって探すよ(笑)。
春休みもまた一緒にどこかへ
いよいよ明後日(明日?)学校なんでちょこっと真面目に準備などなどしたいと思います。が。
朝、起きられなかったら準備なんぞまるでなにひとつ意味がないので、がんばります……!(基本中の基本ができないだめ人間) ……でも八日の、仏語の授業のチーズフォンデュ作りは正直出たくな……(だから仏語の授業嫌いなんだよ! テキスト進めてよ!)
出ないと、友だち二年生一人になっちまうからなあ。恨まれるよな、さすがに……
……アクティブ宣言すでに挫折しそうな感じですが? もしもし?
時間を有効活用するすべを身につけたい。やりたいことは山のようにあるんだぜ。

芯
